●ふれあい館におとずれる中学生たちといっしょに本を読むことがある。そこには、さまざまな背景を持った子どもが集まる。彼女/彼らは、ときに自暴自棄になったり、ときにエネルギッシュに語る。自分ではどうすることもできない事態のなかで呆然としたり、刹那的な楽しみのなかで哄笑したりする。そんな子どもたちと一時間、真剣に本を読む。いまは、ある精神科医が書いた『十代のうちに考えておくこと』という本を読みつつある。●著者が、「医者」といっても偉ぶらないし、自分の弱点を隠して「いい人ぶる」大人ではないということを察してか、子どもたちの食いつきはすこぶる良い。先日、「好きなことを続けるということ」という箇所を読んだ。読む前に子どもたちに就きたい仕事のことを聞くと、「ネールアート」、「モデル」、「まだわかんない」、「カンボジアに学校」、「テレビに出る仕事」・・・。「いつまで働く?」と聞くと、「50歳くらい」「わかんない」「結婚したらやめる」「定年まで」・・・。本では、たとえば50代のスタイリストが紹介される。その人は、20代の頃、「スタイリスト」という職業が認知されていなかった時代、周囲から「補助的な仕事」とか「趣味」とか言われて、正当に評価されず、「いつもお金がなかった」という。60代の女性医師は、給料を貯めてはアフリカに渡って医療ボランティアをして、「シンプルな服にいつもノーメーク」。休みの日には、「たまりにたまった洗濯と掃除」をする。でも「つらいときもあるけど、本当に楽しい」のだという。●著者の精神科医は、自分は、へなちょこなので、「もうやめようかなー」なんて言いながら手抜きすることもあるし、つらくなったら「もう、やーめた」ってなるかも、と一旦、告白する。でも、こういう人生の先輩たちを見ているうちに「好きなことを続けるって、すごく大事なことかも」と思いなおしている、だから、いつか「好きなことを続けるって、なにより大事」ということばを思い出してね、というメッセージを残して文章を閉じた。●読み終わったあと、著者が同じ本の中で投げかけた「二億円あげるから四十五歳で定年退職してください」と言われたらどうするか、という問いをなげかけてみる。「わたしは、やっぱり定年までちゃんと働きたい」。「働いて家にお金入れて助ける」「生きるのにマジでお金は大事だ。でも、わたしはいやだ。二億円なんかいらねえよ。人の役に立つのも大事じゃん。ノーメークはやだけど(笑)。自分の好きなことをあきらめちゃいけないだろう!」。●彼女/彼らがどんな仕事に就くことになるのか、いまはわからないけれども、「あきらめる」ということがないようであってほしいと願う。そして「夢中になれること」を見つけて、それを「なにより大事」にできる大人になっていってほしいと思う。そして、そのために、ほんの少しだけのお手伝いがゆるされればと思う。 (2013.4.4 KSY)